これはいい

韓流好きのリフレ派さんに、当ブログのコメント欄でもお勧めいただいた「社会保障の経済学(第三版)」を読了。

社会保障の経済学

社会保障の経済学

これはいいです。福祉を巡る議論で、なんとなく聞いていたけど根拠がよくわからない話、というのはけっこうある。例えば、ロールズ型社会的厚生関数を取った場合の税体系の話とか、現物給付と現金支給の得失についてとか。そういう話をこの本はきちんと説明してくれた。

年金制度についても、賦課方式と積立方式について、式を立てた上で説明してくれるのはわかりやすい。式を追うのは得意ではないが、それでも式があった方がこの場合ありがたい。一つ恐ろしかったのは、「生活保護制度がありかつ保険料を強制的に徴収しない場合に何が起きるか」という話であった。代を重ねるごとに税は重くなり、高齢者の多くは生活保護で暮らすようになり、現役時代に散財する割には効用は低くなると言う、ろくでもない結果が待っている。現状の国民年金の徴収率の低さを考えれば、これはもうリアルなシナリオと言っていい。

介護についてたびたび、介護・保育サービス市場の経済分析―ミクロデータによる実態解明と政策提言 を参照しているが、介護関連の記述はこの本はいいんだろうか。保育関連部分は問題ありすぎだと思うのだが(id:sakidatsumono:20050227)。

日本の社会保障給付費のうち、児童福祉や生活保護への給付比率が、欧米と比べて極端に低いことは知られている*1。この本のページ数も、社会保障給付費のウェイトを反映してか、児童福祉と生活保護に関する記述が極端に少ない。この点、いかにも日本的な福祉の本だなと思った。

本筋に関係ないところで興味があるのは、大病院の数と医療費の間に強い相関があるという話。「病院が過多だと、食っていくために医者が過剰医療を施すからだ」という説明と、「待ち時間が減ったり通院が楽なので、医者に行きやすくなるからだ」という説明がある。診療所の数も加えて多変量解析すれば、どっちの言い分に分があるか判定できると思うが、そのような研究はないのだろうか。

*1:欧米と比較して手厚い扶養控除や専業主婦優遇制度、公共事業が、児童福祉や生活保護の替わりとなっていることはひとまず置いておく。