財政再計算の内容を評価する(その4')

id:sakidatsumono:20041103の続き。今回は脱線なので、その5ではなくその4'にした。なぜ少子化対策が効果をもたらさないかという話。

まず金をかければ出生率が回復するというものではない。出生率の高いスウェーデンでは学校教育が無料だとか児童福祉が手厚いというが、出生率の低いドイツでも学校教育は無料で児童福祉も手厚い。児童福祉の方向性は違うけれど。
育児と就労の両立支援という方向性自体は、妥当だと思う。http://www5.cao.go.jp/j-j/doc/s9honbun-j-j.html第二章の参考図表中の1-2-14図を見てもわかる通り、女性が家庭に入るということは大金を稼ぎ損なうことでもある。これを公的に保障しようとしてできるものではない。また両立支援自体、厚生省と労働省が合併したことで、政策的にはやりやすくなっているはずだ。しかし、実効的な両立支援は、少なくとも現在の日本では非常に難しい。その理由を以下に述べる。

正社員にしか有効ではない育児支援制度

育児休業制度等の育児支援制度は、正社員以外には及ばない。パート*1契約社員派遣社員には適用されない。しかし正社員は仕事の負荷が高いので、育児と仕事を両立するために、これらのワークスタイルを選ばざるを得ない場合が多々ある。正社員とそれ以外の労働者が、次の子を産んだ場合の違いは以下の通り。

正社員の育児休業パート・契約・派遣社員
収入在職時の四割が雇用保険から支給なし
社会保険料免除だんなさんが自営なら払う
出産後の上の子の保育園出産後一年までOK出産後八週間で追い出される
復職時の上の子の保育園そのまま新たに探す。優先順位低。
復職時の下の子の保育園優先順位最高優先順位低
正社員にしても、肩身の狭い思いをしながら働くか(これだって勤め先に理解があればの話だ)、保育先を確保して子どもと接する時間を削るかのどちらかになってしまうけど。

減らない待機児

供給側の問題としては、予算制約や、性別分業役割意識以外にも、保育の供給を制約する条件がある。長期的には子どもの数は減少する一方なので、新規参入は既存の保育園にとっては望ましくない。ここで新規参入に対して政治的な圧力がかかる。この構図は、児童福祉界であっても例外ではない。
需要側の問題としては、「インサイダー・アウトサイダー理論*2」と同じ構図がここにもある。「パートにも利用しやすい保育制度を導入する」とか「公立保育園を増築して定員を増やしてから民営化する」と言った施策は、待機児童の親にとっては歓迎できる施策であるが、現在の状態から変化する在園児の親にとっては、必ずしもそうではない。在園児の親は、保護者会や、保護者会団体を通じて行政に圧力を掛ける事が出来るが、待機児の親はそうはいかない。
供給が増えたとしても、保育所の状況(平成16年4月1日)等についてにある通り、待機児童はなかなか減らない。これは、供給が需要を喚起するからだ。行政が需給調整をする以上、需給調整が上手く行くことは期待しにくい。

一番の問題は労働慣行なのだが

どこの国にもガリガリ働く人はいるわけだが、欧米に比べれば、日本はガリガリ働く人の割合が多くって、労働者にとっては融通がきかない。その分、きっちりとした時間に社会が動いているのかもしれないけど。そしてガリガリ働かないことを選択すると、一気に労働条件が悪化する。ここが究極の選択を迫るのではなく、もう少し幅広く選べると良いのだけど。結局のところ、行政や企業に頼っているだけではダメで、各自が自分や家族をもっと大切にして、場合によっては企業に三行半を突きつけて起業するような人が増えなければ、状況は変わらないのではないかと思う。

*1:正確には期間を定めて雇用される者

*2:現在雇用されている労働者(インサイダー)の労働時間や賃金を削って、失業者(アウトサイダー)を雇用することが望ましいとしても、労働者は結託して自分の既得権益を守ることが可能なので、失業者は救われない、というもの