歴史の恨み恐るべし

日本政府が少子化政策について語る際は、必ず過去の「産めよ増やせよ」政策の苦い経験が身に染みて残っており、「出産はそれぞれの夫婦の選択」という点をクチを酸っぱくして語っている。第二次世界大戦での負け組・日独伊の三国がそろって低出生率に苦しむのも、ファシズム政権が露骨な人口増加政策を採った当時の記憶が残るためとも言われている。この点フランスではどうか。先進諸国の人口問題―少子化と家族政策 P177より、小島宏の文章を引用。

フランス国民が出生促進主義的で政府介入に受容的である背景には普仏戦争以来、一貫した、中央集権的な政府による情報普及活動があると思われる。戦争が終わる度に敗戦や苦戦の一因として、低出生力、人口高齢化、人口活力のなさが挙げられ、出生促進主義的キャンペーンが繰り広げられてきたし、最近では移民の増大との関係で出生促進を唱える政治家もいる。

P197より、Gerard Calot(Fertility Trends and Family Policy in France)の文章を引用。

数々の研究は、1800年以降のフランスの相対的な衰えが人口学的な要因にあるとみている。(中略) 最後に、ド・ゴール、ドュブレ、ミッテラン、ソーヴィのような多様な人々がフランス衰退の最終的な象徴とみなすのは1939〜40年の屈辱的敗戦である。この敗戦も一部は不十分な人口動態に起因する。ヴィシー政権が制定した家族政策法がリベラシオン(パリ解放)後廃止されなかった唯一の法律である理由はここにある。

日本だと、少子化が問題になっても、少子化対策に反対する声や、少子化対策のコストパフォーマンスに対する疑いの声も大きい。低成長時代なので、これ以上税金や社会保険料の負担を上げる訳にはいかないし、高齢者への福祉を削って児童福祉に回すには政治的抵抗が大きすぎる。出産・育児世代は、マイノリティーに属するからだ。id:antiECO:20050120 より:

保育施設等の整備の遅れや企業の現行の体制が女性の社会進出を阻んでいるとか、養育者にも社会との接点が必要などという概念が持ち出されることについては強い違和感を感じる。

いわゆるM字型曲線*1がまったく見られないフランスと、くっきり現れているどころか20年立っても消えないと予想されている日本を、保育や企業体制の点で一緒に扱うことはできないだろう。また日本の専業主婦の場合、特に大卒以上の学歴を持つ母親には強い育児ストレスがあり(詳細は 子どもという価値―少子化時代の女性の心理 (中公新書) あたり参照。)、子どもへの悪影響が心配されている。子どもには母親さえついていれば良いというものではない。そう思っている人が多いのは知っているけれど。

*1:女性の就労率は、出産前の若年層と、子育て終了後の中年では上がるが、その間でがっくり下がる