年金スリム化による少子化対策?

http://reflation.bblog.jp/entry/131377/
で無理だとおっしゃられている「年金スリム化で出生率向上案」、わたしも無理だと思う。この案だが、田中氏がまだ未読だと言う赤川氏はイチオシ(P128)なのである。論拠は 家族の経済学 なのだが、どうせシグノーに触れるなら、「比較優位に基づく経済合理性により、夫婦は性別役割分業するのが正しい」という話も出して欲しかった。

子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)

子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)

赤川氏の本は、そんなには面白くなかった。とにかく男女共同参画社会派が言うことに、ことごとく脊髄反射で反対しまくっているわけだが、夫の家事・育児量を増やせという主張は「それはカップルの勝手」って、肝心の夫はもっと家庭を大事にしたいのに仕事をしなければいけない現実があるhttp://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2004/html-h/html/g1223320.htmlのにそういう話はなんで無視するんですか。

男女共同参画社会派が恣意的にデータを扱っているとさんざん言う割には、自分はもっとひどいことをやっている。P59より引用。

1997(H9)年度の国民生活白書によると、正社員のまま勤続し続けた場合と、学卒後就職・結婚出産後退職・子育て後にパートタイムで再就職した場合とを比較すると、逸失所得は4400万円にも及ぶという。

その国民生活白書の元のグラフはこちらの1-2-14図。
http://www5.cao.go.jp/images/s9-1-2.xls
逸失所得は4400万ではなくて1億2千万円。金額を意図的に低くすることで、女性の就労のメリットを低く見せたいんじゃないのかと勘ぐりたくなる。

赤川氏は、インセンティブによる出生率改善効果へは、次のように反論している。

  1. お上に産めといわれても産む気にならないという気になる。
  2. お上に助けてもらわなきゃできないほど結婚も出産も大変なのかと思わせる。
  3. 支援の分だけ結婚や育児に対する期待値が高まり結局無効。

じゃあ少子化に限らずすべてのインセンティブは無効ですか、はあそうですか。と言いたい。その割には、少子化対策のおかげでフランスの出生率が0.185上がったという分析結果を紹介(P37)するわけですか、そうですか。

田中さんのおっしゃっている学童と保育園のギャップっていうのは大きいですよね。我が家は「第一子の保育園卒業と、第三子の産前休暇を一日の誤差もなくぶつける」というウルトラCで乗り切りました(冷汗)。

冬ソナは全然見ていないのでパスです。この本のおかげで筋書きだけわかった(笑)。

空想プロジェクトマネジメント読本

空想プロジェクトマネジメント読本

2/4追記: アマゾンに「子どもが減って何が悪いか!」の書評を投稿しました。
自由主義者自由主義者のための自由主義者による少子化反対論

筆者にとって大事なのは選択の自由なのだが、その選択が「究極の選択」を強いられた結果であるか否かには筆者はまったく関心を持たない。例えば男の育児を勧めるキャンペーンに対して、それは各人の選択の結果としているが、当の夫たちが意に反して仕事にウェートを置いているというデータには触れないままだ。最後になって付け足しのように女性差別の改善が急務といいつつ、対策として人事採用は匿名で、面接はカーテン越しで、音声はボイスチェンジャーを使えとナンセンスなことを大真面目に言い出す。

本書は少子化対策の論者の、男女共同参画イデオロギーに歪められたデータ解釈を批判しているが、男女共同参画自由主義に置き換えれば、その姿勢はまったく筆者にも言えることだ。「高齢化のインパクトを当面少子化で和らげる」「子どもが三人欲しいというのは少子化問題に対するリップサービス」などと、本から少し引用しただけでデータを考証することもなく主張している。オランダモデルを否定するくだりなどは、この人にとっては結婚は金か家事サービス目当てに結婚するもので、子どもはただのおまけかしらと突っ込みたくなる。

女性の社会進出を苦々しく思う人たちにとっては、現在の少子化政策の背後のロジックミスを指摘するこの本は、非常に便利なテキストとなるであろう。筆者の願いに反してこの本が、「企業戦士+専業主婦+子ども2人」という一昔前の標準世帯に人々を押し込めるための道具として使われないことを祈りたい。ロジックミスを指摘する部分の半分くらいはよく出来ていて面白いだけに、残念に思う。