書評

介護関係は楽しく読めた*1が、保育関係はツッコミを入れっぱなしだった。先行研究の豊富な紹介や、データいろいろは非常に参考になるのだが。保育サービスに関するミクロな研究って、必要とされている割には端緒に付いたばかりで、政策提言にはまだまだ道は遠いわけだ。
公立保育園・私立認可保育園・準認可保育園の質の比較っていうから期待して中身を見ても、世話のレベルのきめ細かさとか、保育士と子どもの相互関係はまったく指標に反映されていない。
「理想の保育園がご近所にあったとして、いくらだったら預けますか」って、未就学児の親と言う条件で聞いちゃダメでしょ。子どもが3歳になっていれば多くの場合、月4万以下で送迎バス・完全給食・預かり保育つきの幼稚園が利用できるのだから。それに認可保育園の料金は世帯所得によって決まるので、「いくらまでならいいです」という申告値を数えても、「平均保育料をいくらに上げれば待機児はいなくなる」というのは違う。

年金改革の比較政治学―経路依存性と非難回避 (ガヴァナンス叢書)

年金改革の比較政治学―経路依存性と非難回避 (ガヴァナンス叢書)

最近、政治がらみの本がちょっと多いかも。タイトルの通り、年金制度の改革は、それまでの経緯と有権者からの非難をより浴びにくい方向に進む、という本。いろんな国の例を示しているが、これが興味深い。米国の、「アフリカ系アメリカ人とヒスパニック・アメリカ人は平均寿命が短いため、個人年金制度のほうが有利になると主張してきた」などという記述(P211)などは、実に衝撃的だった。
日本の今後を占うのは、英国の事例ではないかと思った。厚生年金が縮小、ずるずる401Kが拡大、その一方で失敗例続出、というシナリオが待っているのではと。

冒頭のJHの減価償却への考え方は、あまりにインパクトが強かった。減価償却が必要ないとは、いっぺん作った道路は老朽化しないと考えているのだろうか。公団等の情報公開は進んだが、ちゃんと中を読んでつっこまないと実態は変わらない。
市町村合併に関する議論は、二年前に世に出すべきであっただろう。興味深いデータが多かっただけに、この点惜しまれる。
個人的に最も興味があったのは、最終章で紹介された、新潟の事例である。広島にも、老朽化した市民球場や、広島大跡地・ヤード跡地・広島駅北といった使い道が定まらない空き地がいくつもある。そう言った施設の維持について、いかに費用を負担すべきか、いかに利用すべきかどうか、アンケートを通して探る試みである。
広島に引っ越してきてから、投資の収益率に対するあまりに楽観的な考え方がはびこっていることには、怒りすら感じている。広島大跡地に国際大学院なんて、東広島(広島大+産官学)・西風新都(広島市立大+修道大+産官学)・広島県立大(県内中核都市3つに分散)の存在を考えれば明らかに過剰投資だ。もっと地方は投資収益率に対してシビアになるべき。その点で非常に参考になるのではと思う。

*1:ツッコむだけの知識もないというのが大きいか