遅すぎた郵貯裏技の封印

1口1000円にして1ヶ月満期のニュー定期に預けるだけで、何口でも利率が1.2%となるという、いわゆる「郵貯裏技」がようやく封印されるそうだ(日本郵政公社発表)。この裏技、マネー雑誌あたりで初めて読んだのは、8年くらい前だったと記憶している。端数の扱いがどうであれ、実際の利率に影響しなかった時代の規定が、低金利時代でクローズアップされた形となった。

この技は、公的金融に対するわたしの認識に不信の種を蒔いた。こんな裏技が堂々と雑誌で発表され、テレビでも放映されているのに、放っておいているだなんて、郵便貯金ってなんて出鱈目な資金管理やっているんだろう、と。その後、財政投融資年金問題PKO(株価維持策)について知るにつれ、不信は大きくなるばかりであるが、それはさておいて。

対策は遅まきながら一応取られた。まず端数の扱いが変更され、4日ごとに預けかえれば年利7%強、という裏技は封印された(1998年5月)。口数分の預け入れ用紙を書かなければいけないように変更された(1999年1月)。しかし、それ以前の自動継続されている預金についてはそのまま。またATMを使う分には、一口1000円で複数口の預け入れは可能なままだった。

ATMの方が対策されたのは、今年の1月。そして来年4月からやっと、この裏技自体が封印されることになった。ニュー定期の金利この通り。いかに、1.2%が鼻血の出るほどの高金利か、おわかりいただけるであろう。郵政民営化の話が出なければ、まだまだこの裏技は存続したのかもしれない。

裏技のせいで余分に払われた利子は、毎年700億円くらいだそうだ。700億ですぜ、700億。新日鉄の前期当期利益すら、簡単に吹き飛ぶ額だ。売り上げ700億円いかない上場企業だってザラにある。普通、異様に客に有利な金融商品は、発売されたとしてもとっとと発売中止になるというのに。終身医療保険「Dr.ジャパン」の件は記憶に新しい。

余計な利子が700億。利子から逆算すると、この裏技を使った預金は、6兆円ほどということになる。預金の統計は日銀のサイトで確認できるが、昨年度末での個人の定期預金が、およそ180兆円だから、その30分の1。あれほど広告を打っている外貨預金4.2兆円より、多額の資金を集めている。

「週刊!木村剛」のバックナンバーに「日本振興銀行の預金が100億円を越えました!」というエントリがある。確かに読んでいてうれしくなるニュースなのだけど、郵貯裏技はこの銀行600行分の資金を集めたのだ。それでいてその金の使い道は、日本振興銀行に比べるとあまりに見劣りする。郵政民営化をどうこう議論するつもりはないが、あまりに公的金融のトホホさを改めて思い知った一件であった。