効用と幸福

変だなー、今日は井堀氏の新刊を買いに本屋に行った筈なのに、気が付いたらこれも掴んでいた。

幸福の政治経済学―人々の幸せを促進するものは何か

幸福の政治経済学―人々の幸せを促進するものは何か

初めてこの本の出版を知った時は、「えー、幸福って効用のことじゃないのー? 監訳が佐和氏ってのもちょっと引くなぁ」と食指が動かなかったのだけど、http://reflation.bblog.jp/entry/132078/を読んで気が変わったのだった。の割には買っているのが今頃なんだが。

で読んでみると、しょっぱなから「日本の高度経済成長時代を通じて、日本国民の感じていた『生活満足度』はほぼ一定である」というグラフから、強烈な一撃を食らった。その下のグラフも、貧しい国は生活満足度が低めで、豊かな国は高めとは言え、豊かで満足度の低い国よりも満足度の高い貧しい国も存在する、と言うもの。というわけで、効用と幸福の間にはろくろく関係はないのであった。

所得がアップしてもすぐ慣れてしまうので満足度は変わらないとか、期待と現実のギャップが満足度を決めるとか、言われてみればなるほどねと思う。「経済学では労働は不効用とみなしてきたが、それは誤り」という説明についても、説得力がある。わたしの場合だと、一日8〜9時間あたりが満足度が一番高いし。適度な労働には効用があるからこそ、失業は満足度を大幅に引き下げることになる。

国別満足度の表もあるが、旧ソ連圏はぼろぼろ、東欧低目、中南米まずまず等、地域ごとに傾向が見られる。OECD加盟国で言うと、リストの上位を占めているのは高負担高福祉かつ地方分権の進んだ国々である点が目を惹く。OECD加盟国のドベはフランス・日本・オーストリアなのだが、フランスでは幸せは馬鹿呼ばわりされ、日本は謙遜から幸福度を低く申告するという。そんなに自虐的になることもなさそうだ。いろんな国別データがあるが、見ていると面白い。「仕事に対する満足度の性差」は、英米は仕事に満足しているのは女性で、日本・デンマーク・スペインは男性の方が満足している。ううむ、これは何故だろう。「仕事に対する満足度」では、日本は旧共産圏並みに満足度が低い。

直接民主制に対する評価も、「政府の歳出・歳入共に減少」、「一人当たり債務の低下」「地価の上昇」「教育に対する公的支出の増大」と興味深い。半年くらい前の義務教育を巡る議論で、地方によっては教育の切り捨てが起きることが懸念されていたが、地方分権でむしろ教育にお金が使われる公算が強いと言うことか。

日本では、年金や少子化といったトピックが大問題になっているが、「効用」ではなく「満足度」に着目した政策を考えれば、或いは打開点が見つかるのかもしれない。という予感を感じさせる一冊であった。

一箇所引っかかるのは、男女とも結婚すると満足度がアップするというのだが、少なくとも日本の場合、男は既婚者の方が自殺率が低いが、女にはそのような傾向はなかったと記憶している。これは日本だけの特異な現象なのだろうか。