マスコミ報道に望むこと
経済学の教科書的書き方だが、鉄道会社は「地域独占」の性格を持つ。故に、市場原理任せでは、採られる安全策は、必要以下のものとなる。だから規制が必要となる。
4日の中国新聞に掲載された鉄道工学専門家の斉藤雅男氏の発言によれば、国鉄では、安全については東京から上意下達であったが、JRになって分割されたために、JR西日本では安全について考える人材がいないらしい*1。JR西日本の監督官庁は国土交通省であるが、オーバーランの多発からJR西日本の運行現場に問題ありと睨んだ国土交通省を、JR西日本はほとんど無視している。
同省鉄道局がJR西日本の安全対策担当者を呼び出して厳重注意したのは3月28日。担当者に説明を求めたが、「現場を厳しく指導しておきます」との返答にとどまり、鉄道局は「会社全体で現場がどうなっているかを見るべきだ」と厳しく指摘した。
国土交通省をスルーするようでは、JR西日本を批判できるのはメディアしか残っていない。問題は批判の内容で、「軽い列車がいかん」「ボウリング大会けしからん」「被災後に出社した運転士と上司は許せん」等の、本質でない部分があまりに多すぎる。こうして余計、JR西日本は変な保身に走るわけで、それは更に現場を痛めつけて、類似事故を招く危険が高い。福知山線再開の条件は建設的で良い記事だと思った(1,3,5にはまったく同感)が、この態度はマスコミ各社にも見習っていただきたい。bewaadさんの「ここまで多い非難が妥当かどうか」に対しては、「量的には妥当かもしれないが、質的には適切ではない」と答えたい。
ダイヤを見直さずにATS-Pを入れた所で、きちんと設定されないか、ATS-Pが発動しまくって収拾付かなくなるかのどちらだろう。ATS-Pの解説ページ
*1:斉藤氏はJR西についてのみ言及しているが、九州・四国・北海道にも言えることであろう。
JR福知山線脱線事故関連書籍その四
定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)
- 作者: 三戸祐子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/04/24
- メディア: 文庫
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江戸時代から、共通の時刻が共有されてきたり、参勤交代という大プロジェクトが発生した等の指摘は興味深い。「あなたはどれだけ待てますか」によれば、江戸末期の頃の米国では、町によって時刻が違っていたそうだから、ペリーがびっくりするのも無理はない。
「列車ダイヤのひみつ」を紹介する人が増えないのはしくしくだ。読み進むごとに、あれもこれも、この事故に関連するのではと思える。この本の著者を解説に呼んで欲しいが、無理だろうか > マスコミ
「心理テストはウソでした」のAmazon書評を見ていたら、脱線事故と絡めて書いている人がやはりいた。
これから読みたい本は次の二冊。
- なぜ起こる鉄道事故 (id:gachapinfan:19750502経由)
- 鉄道事故の再発防止を求めて―日米英の事故調査制度の研究
JR福知山線脱線事故・参考文献その参
- 作者: 村上宣寛
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2005/03/30
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事故を起こした高見運転手は、過去に三度処分と報じられている。「それがひどいというんだったら、早く配置転換しなかったのが問題だし、運転手になすりつけようとしていて嫌だなあ」と、報道を聞いて思った。
でたらめな適性検査で運転士を選抜したら、適性がなくてもパスすることも少なからずあるだろう。当然、事故の確率も上がる。
ちょっとこの本で疑問なのは、「心理学者は海外文献もロクに読まない」と書いてあることだ。そこまで不勉強な研究者がそうそういるとは思えないのだが、、、
JR福知山線脱線事故・参考文献その弐
あなたはどれだけ待てますか―せっかち文化とのんびり文化の徹底比較
- 作者: ロバートレヴィーン,Robert Levine,忠平美幸
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2002/06
- メディア: 単行本
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http://www2.asahi.com/special/050425/TKY200505010176.html
土地によって時間の感覚がこんなに違う、というのがよくわかる本だ。著者らは、各国のせっかちさを、次の基準で測定した。
- 歩く速度
- 郵便局で切手を買ってお札を渡してお釣りを貰うまでの時間
- 公共の場所にある時計の正確さ
日本(実験場所は東京)は、31か国中4位。ただし、郵便局で頼みもしないのに領収を切ったり切手を小袋に入れてくれたのは日本だけ。これが郵便局でのタイムを4位に引き下げることになった。
経済が豊かだったり、暑くなかったり、人口密度が高かったり、個人主義の国ほどせっかちになる。ただこの本では、幸福度自体は経済の豊かさにスライドしていると述べている。あれれ、「幸福の政治経済学」(id:sakidatsumono:20050220参照)と違うぞ?
著者は日本について、まるまる一章を割いて記述している。題して「日本の矛盾」。せっかちで過重労働の割には、冠状動脈心疾患が少ないのは、終身雇用による会社への所属意識によるものと分析しているが、著者が日本にいたのはバブルの頃で、現在とはだいぶノリが違うような気がする。当時は5次下請だの海外アウトソーシングだの個人請負だのは聞かなかった。今の日本は冠状動脈心疾患は多いのか?
「小学五年生」おそるべし
小学五年生はすごい。先月号には、ライブドア vs フジテレビのちゃんとした解説と、株式投資入門が載っていた。今月の株式投資入門では、「日経新聞の株価欄の見方」と「できれば四季報も読め」そして、テクニカルとファンダメンタルズの両方から「株の買いごろ」について説明している。テクニカルは、もみ合いから上離れしたタイミングで買え、下げ局面では買うなとのこと。ファンダメンタルズでは、PERとPBRについて説明している。
先月号では、三人の子がそれぞれ、銘柄を一つづつ(ライブドア、トヨタ、ソフトバンク)選んで仮想投資したのだが、今月は値動きと材料について簡単に考察している。ソフトバンクの子が「ホークスの成績とはあまり関係ないみたい」と言えば、トヨタの子は「ドルと円の値段がだいじ」とまで言っている。すげえ!下手な投資雑誌よりよっぽど勉強になるかも!
JR福知山線脱線事故・関連本その壱
- 作者: 富井規雄
- 出版社/メーカー: 成山堂書店
- 発売日: 2005/02/01
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問題の路線は、ダイヤの組み方が無茶だと批判されている。
兵庫県尼崎市で脱線事故が起きたJR福知山線の直線区間の制限速度が一昨年のダイヤ改正で、時速100キロから120キロに引き上げられていたことが分かった。快速の停車駅を一つ増やし駅間距離が短くなる一方で所要時間は変更されず、事故現場の急カーブに入る直前には、ブレーキをかけて減速しなければならなくなったという。脱線した快速の運転士は、オーバーランによる遅れを取り戻そうと速度超過の状態でカーブに進入したとみられ、同社が高速化に伴う運転の危険性をどの程度認識していたのかが問題になりそうだ。
ところがこの路線を取り上げて、著者はその精緻さと正確さを激賞している。草津から西明石までのJR京都線・神戸線は複々線で、これが尼崎駅で宝塚線および東西線と乗り換えられるようになっている。大阪・芦屋・三ノ宮では、同じホームで各停と新快速の乗換えが出来る。東西線にも神戸線にも、下り列車は、宝塚方面行きと西明石方面行きがあり、どちらに乗っても尼崎で同じホームで違う方向行きの列車に乗り換えることができる。
ダイヤを縮める方法として、最高速度を上げることには言及しているが、急ブレーキを掛けて600m以内で止まれるかどうか以外の問題点については触れていない。「遅れないダイヤを作る」という章があって、運転曲線図*1の記述があり、遅れたダイヤを取り戻す方法として余裕時間をダイヤに組み込んでいったり、終点での折り返し時間で吸収したりする方法が書いてあるが、「カーブの直前まで最高速度で突っ込む」とは書いていない。
他にもJRは長距離列車があるので、私鉄に比べてダイヤが組みにくいとか、いろいろ示唆に富む記述がある。
*1:A駅を出たら何秒で時速○kmまで上げる等をグラフで示したもの
事故死亡率その他
http://bewaad.com/20050502.html#p01
自分に非があることも多い自動車事故一般と、自分にまったく非がない鉄道事故をまったく同列に扱うことはできないのでは。事故の死亡率等については、原子力安全委員会・安全目標専門部会第9回資料が詳しい。残念ながら、輸送人キロ当たり死亡者数はこれではわからない。
http://nsc.tokyo.jst.go.jp/senmon/shidai/mokuhyo/mokuhyo009/siryo2.htm
鉄道の安全率については、現在の日本は一昔よりは一桁改善している。しかし、現在のJR西日本のような体質を放置すると、また昔に戻るのではという危惧がある。現に欧州では、大規模鉄道事故が多発しているのだから。
http://www2.kanazawa-it.ac.jp/knl/nagase/comment18.html
なお鉄道事故全般については、こちらのリストが充実している。
http://home.t01.itscom.net/jikoku/jiko.htm